韓国イチゴ騒動はフェイクニュースだ


話題の韓国イチゴ

平昌五輪を契機に、韓国のイチゴ品種をめぐる問題が再熱した。

その引き金となったのは、カーリング女子日本代表がハーフタイム中に食したイチゴについて、朝日新聞が報じたコメントだ。

「韓国のイチゴはびっくりするぐらいおいしくてお気に入りでした」

この報道を受けて、インターネット上では「それは日本のイチゴだ!」という声が急速に広がっていった。過去のテレビ番組やネット記事などをもとに、その品種は韓国で栽培されている日本の「レッドパール」(育成者・西田朝美氏)や「章姫」(荻原章弘氏、ともに故人)ではないか。しかも、日本人の育種家との契約を破って韓国で広まった”盗品”だという話だ。

国民的関心の高さから、テレビから新聞、雑誌が次々にこの問題を取り上げていった。

農林水産省もこの話題に追随し、斎藤農水相は「選手には日本のおいしいイチゴをぜひ食べていただきたい」とアピール。そのうえで、(韓国のイチゴ品種は)「日本から流出した品種をもとに韓国で交配されたものが主だ」と問題に言及した。また、農水省は「日本のイチゴが韓国に流出したことで、日本産イチゴの輸出機会が奪われ、その損失額は5年間で最大220億円」との試算を発表している。

この報道が広まると、「韓国の盗品を許すな!」「日本政府は韓国に損害賠償を求めるべき!」といった反応がネット上でさらに高まり、拡散されていった。

しかし、以前の記事で、詳細に論じたように、この問題はそんなに単純ではない。

日本代表が食べた韓国のイチゴ品種はその形状と色合いからして、「ソルヒャン」(雪香)である。ソルヒャンはたしかに、日本人が育成した「章姫」と「レッドパール」を掛け合わせたものだが、新品種の交配する際、もとの品種をつくった育種家の許可は必要とされない。つまり、カーリング選手が食べたイチゴは日本の品種ではない。合法的に韓国で育種されたイチゴである。

この見解は日本の種苗法でも韓国の種苗法(種子産業法)でも同じだ。両国の法律の元となった国際条約UPOV(植物の新品種の保護に関する国際条約)ではこうある。

「育成者権(新たな植物品種をつくった人に与えられる権利)の例外」(15条)が定められ、権利が及ばない範囲として、「他品種を育成する目的で行われる行為」があげられている。

国際的な品種保護ルールは、育成者にインセンティブを持たせて新品種の開発を促すことが目的で、それを妨げるものではないからだ。これは世界の種苗法制の基本中の基本である。

農水省の研究機関でも同様のことをしている。韓国で開発された2品種「密陽42号」「密陽25号」を交配したコメ品種「タカナリ」などを作り、日本で品種登録済みである。

しかし、「もとは日本品種だからパクリだ」という意見がネット上でいまだに根強い。この考えは育種の基礎知識が欠けたものだ。日本のイチゴ品種A(例:章姫)とB(レッドパール)を掛け合わせたら、簡単にC(韓国品種)ができるという思い込みに基づいている。実際の育種とは、C1・C2・C3・・・といった何十、何百の系統のなから品種目標に合うものを何年もかけて選抜していく、技術もセンスも根気もいる作業である。

その結果できたソルヒャンは、両親の特質を備えながらも、それを超える大果率(大玉がたくさんとれる=高く売れる)と収量性(たくさん収穫できる=多く売れる)という、両立がきわめて困難な育種課題をクリアしたきわめてすぐれた品種だ。しかも、韓国の気候や発生しやすい病気、農家のつくり方のクセ(密植栽培)まで考慮し、栽培条件にあった品種を選び抜いている。

韓国の策略

とはいえ、前回の記事で解説したとおり、韓国のイチゴ育種に関する国家戦略はあまりに策略的であったのはたしかだ。UPOV条約批准により、これまで栽培していた日本品種のロイヤリティの支払い義務が発生する2012年をターゲットにして、多数の日本のイチゴ品種を交配しまくり、韓国の新品種を育成していったのも事実である。

その成果のひとつが今回、注目を浴びたソルヒャンであり、もうひとつが輸出用品種メヒャン(梅香)である。ソルヒャンと同様、日本品種同士(章姫と栃の峰)を交配したものだ(正確を期するために補足すると、日本の品種ほどではないが、韓国の育種機関は、アメリカやイギリス等の品種も交配している)。

このメヒャンには日本から輸出されている品種と決定的な違いがある。「高い保存性」だ。輸出に伴う「長時間輸送」に耐えたうえ、輸出先のスーパーの棚や家庭の冷蔵庫で「日持ち」する特徴である。輸出マーケットにおいては、この一点だけで、日本の全ブランド品種を凌駕してしまっている。事実、メヒャンの輸出量は、日本からのイチゴ総輸出量の10倍に達するほどだ。

その実態は輸出現場をみれば一目瞭然だ。写真(1.2)は、今年3月に香港のスーパーで撮影したものである。日本品種は傷みが多く、「値引き」シールが貼られている(写真1)が、韓国品種はまったく問題ない(写真2)。しかも、韓国産の値段は日本産の半分以下のため、消費者の手は韓国産のほうに伸びてしまう。

(写真1)

(写真2)

現地スーパーの青果担当者に話を訊くと、「日本の品種は美味しいといっても、儲からないから扱いたくない」「それでも、国や県の助成金で棚代が補填されるから、扱っているだけ」と本音を漏らす。同じ光景を筆者は10年以上前から幾度となく、海外マーケットで目撃してきた。

これでは、農水省が試算する220億円の被害額にはまるで説得力がない。その計算の前提は、日本の品種を掛け合わせた韓国品種が輸出されていなければ、そのマーケットはすべて日本からのイチゴ輸出に置き換わっていたはずというものだ。韓国の輸出額が年44億円だから、5年で220億円の損害を被ったという手前味噌な計算である。

しかし、現実は日本のイチゴと韓国のイチゴは商品特性上、まったく別物といっていい。両国のイチゴ輸出マーケティング戦略についても前回、詳しく述べたとおり、質・量ともにまったく異なる。残念ながら、韓国の完勝だ。

このような事実関係を理解していない、農水大臣が「韓国に輸出市場を盗まれた」かのような主旨の発言をしたところで、ただの負け惜しみにしか聞こえない。もっといえば、そんな言いがかりを国家が表明するようでは、日本の国際的な信用を棄損してしまう。

マスコミの嘘

一方、農水省の言い分の背景には、植物品種の“流出”問題がある。韓国が掛け合わせた品種の一部(章姫、レッドパール)について、かつて韓国各地で育種家の許諾の範囲を超えて苗が増殖され、無断栽培されていたことを指す。しかし、韓国人農家個人の不法行為と新品種を育成した韓国の試験場による合法行為はまったく別の行為である。合法品種を栽培したイチゴを韓国から輸出する行為も、当然ながら合法だ。

今回、農水相はオリンピック選手の発言にかこつけ、これら3つの異なる行為を無理やりむすびつけて、根拠のない被害額を広めてしまった。その結果、複雑な問題の真相を明かすことなく、韓国に対する被害者意識を日本国民に植え付けてしまったのだ。そうした官主導のフェイクニュースをNHKや朝日新聞などのマスコミ各社が鵜呑みにして拡散し、問題をさらに複雑化させているのが現状である。

農水相はさらに同発言にかこつけて、問題への対策を発表した。

「この韓国のイチゴの話もありますので、植物品種の海外流出防止についてしっかりと対策を講じていくことの必要性を改めて認識した」(4月2日記者会見)

この対策は、具体的には「植物品種等海外流出防止緊急対策事業」と呼ばれる補助金だ。目的は「我が国輸出農産物と競合し得る優良品種の海外での生産を防止し、輸出促進に貢献」し、そのために「海外における品種登録出願に対する支援を行うことにより日本の品種の海外流出を防止」するとある。

新聞各紙はこの対策について、好意的にとりあげた。たとえば、読売新聞3月19日社説は全面賛同の意を表している。

「国内で開発されたイチゴやブドウが、知らぬ間に海外で栽培される例が増えている。権利保護の取り組みを急ぎ、貴重なブランドを守りたい」「国際ルールに基づいて各国で品種登録しておけば、無断栽培を避けられたケースが少なくないはずだ」「日本の農政は長年、輸出が重要視されてこなかった。品種開発を手掛ける農業試験場などは、国内での権利保護で満足しがちだ。農水省が先頭に立って、意識改革を進めることが重要である」「輸出が見込める品目で、各国の登録申請が間に合う場合は早急に手を打つ。アジア市場は高級食品の需要が急拡大している。これ以上、後手に回ってはなるまい」「政府は関連費用の助成を始め、相談窓口も設けた。さらに手続き面などでも支援の充実を図ってもらいたい」(一部抜粋)

もっともらしく聞こえるが、農水省の対策も読売新聞の社説も、問題の本質がまったくわかっていない。

そもそも、品種登録の目的を完全にはき違えている。

品種登録制度とは何か。一言でいえば、「植物版の特許」制度である。新たな植物品種として登録できれば、それを作り出したブリーダー(育成者)に対し、一定期間の独占的利用権を提供するものだ。専門用語で「ブリーダーズ・ライツ」(育成者権)と呼ばれている。

この権利を保証することで、育成者は登録した国々で農家に自分の品種をできるだけ栽培してもらえるよう営業し、種苗を販売してその利用料を取得できる。経済的リターンを得ることで、育成者はまた新たな品種を頑張って作ろうという開発インセンティブが高まる。

有害な農水省の補助金政策

品種登録とは、新品種をマーケットに投入し、適正な対価(ライセンス料)を得ることで、さらなる品種開発へと再投資できるための仕組みづくりの一貫なのだ。つまり、新たな商品作物が世界で次々と誕生する前提となる制度である。

それは、生産者にとっても消費者にとっても利益になる。新しい品種を栽培する生産農家の売上増につながり、そのおかげで世界中の消費者もおいしい野菜やより甘い果物を食べたり、きれいな花を楽しんだりできるのである。国産農産物の輸出振興とは何の関係もない。

ところが、農水省の政策はこうした知的財産保護の目的を無視している。国策である「輸出促進に貢献」するため、「海外での日本の品種の生産を防止」することを補助事業の狙いにしているからだ。自分がつくった品種を海外で広めようとする個人や民間の育成者を目の敵にするものといってもいい。

品種の育成者権は国のものではない。この権利は、何百年もかけて、品種の育成者たちが各国政府と闘い、勝ち取ってきたものである。15世紀に生まれた文学・芸術作品への著作権や17世紀に成立した発明品に対する特許権と異なり、植物品種の創作活動については長年、各国はオリジナリティがあるものと認めてこなかった。「植物は誰のものでもない」という伝統的な考え方が深く根付いていたからだ。

これでは新たな種苗を長年かけて開発しても、商売にならない。苗1本を売れば、翌年以降は農家が自家増殖(種どり、苗づくり)して増やしてしまう。とくにイチゴのような無性生殖植物では、1本の苗からランナー(匍匐茎)を通じて、何百本ものクローン(子苗、孫苗、ひ孫苗…)を簡単に増やすことができる。「盗まれた」と裁判をおこしても、国も相手にしてくれない。

そこで育成者は、大量コピー(自家増殖)されることを前提に、各農家に最初の苗を超高値で売るなど工夫をしてきたが、限界がある。韓国で広まった章姫やレッドパールのように、一番最初に契約した農家がほかの農家にただで譲ってしまえば、知らぬ間に爆発的に広まってしまうからだ。

これは長年、世界の育成者を悩ましてきた問題だ。アメリカの果物栽培雑誌の古いバックナンバーをみると、「育種は見返りがない」という育成者の嘆きの記事が掲載されているぐらいである。

そこで、アメリカの育成者たちは真っ当な権利を勝ち取るため、1875年、種苗生産者協会を結成。クリエーター(創作者)としての独創性を訴えた末、1881年に品種に自分で名前をつけて販売できる「商標権」のみ認められた。その後、1906年に育成者の一人が品種の特許取得に挑戦したが、却下されている。

70年遅れの日本

アメリカと並行して、育種家の地位向上が進んでいったのが英国だ。1884年に英国園芸協会が品種名登録制度を開始し、1904年に他の品種との区別性を審査する制度がはじまった。フランスでは1922年、ドイツでは1930年に品種名称保護のための法律が整った。

そして、現在の育成者権に繋がる権利がはじめて認められたのが、アメリカだ。種苗生産者協会が50年以上にわたってロビー活動を続け、1930年の特許法改正で、ようやく植物の新品種にかかわる特許制度が創設された。発明の「再現性」が担保できる無性繁殖に植物(イチゴやリンゴなど、苗や挿し木から受粉なしでクローンが作れるため)に限定されたものだったが、育種家にとっては大きな勝利だった。

この勢いにのり、欧州諸国でも育成者が団結し、1938年にはASSISEL(国際植物品種保護育成者協会)を結成した。その活動の延長線上に1968年に締結された世界初の植物の新品種の保護に関する国際条約UPOVがある。

日本はといえば、特許どころか、品種の名称登録制度がはじめて導入されたのは、英米から70年遅れること1947年(農産種苗法)のことだ。しかし、知財保護の概念はなく、法律の目的は不良種苗の取り締まりに重点が置かれていた。戦時中は、物資統制令に基づき、育成者は営業の自由さえも奪われ、農商務省に命令で種苗生産をしていたぐらいである。

戦後は民間種苗業者が集い、「国に対して、アメリカの特許制度を参考に新品種に関する法律整備を求めたが、農水省の反対にあって頓挫した。明治政府ができて以降、種子開発は農水省やその下請けとしての都道府県の業務とされ、民間への権限移譲につながるものとして抵抗したのだ」(農水省OB談)。

1968年以降、国際的なUPOV条約の流れを受けて、政府はようやく、個人や民間の育成者の権利を認めようという方向に動き始めた。しかし、そこで起こったのは通産省と農林省間の利権争いだった。「特許」制度を所管する通産省と、従来から育種とその審査を担当する農林省が、新たな制度をめぐり、どちらの省が権限をもつか縄張り争いを始めたのだ。育成者は蚊帳の外である。

最終的には農水省が勝利したが、日本がUPOV条約に締結したのは欧州に遅れること30年の1998年であり、国際基準に合った種苗法に最終改正されたのは1999年と、ごく最近のことである。

そうした日本の法制度を研究していたのが、韓国である。国内法は日本と同じ1998年に種子産業法を成立させ、UPOVには2002年に加盟している。ただし、前回の記事でも触れたように、イチゴを含む全作物の新品種を保護対象にしたのは2012年と先延ばしし、その間隙を縫って、国内品種への種苗更新を促進していった。

韓国のイチゴ輸出ノウハウ

韓国は同時に、育成者権を活用した、欧米の先行する種苗事業モデルを研究し尽くしていた。そして現在、海外への品種普及ビジネスにおいても、韓国は日本の先を行っている。海外で日本品種の栽培を防止しようとする農水省と違い、すでに韓国品種のイチゴ品種の育成者権について、中国やベトナム、モンゴルなどで利用権の設定済みだ。生産も開始され、ライセンス料も受け取っている。

一例をあげれば、韓国品種「サンタ」である。これは、他の韓国イチゴと比べ、いちばん早く収穫できる極早生の品種だ。なぜサンタを他国で栽培させるのか。周到な作戦がある。

別の国の農家にこの品種の生産委託をし、指定したスーパーに売らせて棚を確保する。そのうえで、自国での収穫シーズンを迎えたときに、その棚スペースに韓国産を投入していく。そうすることで、韓国品種ブランドの販売時期を伸ばし、消費者にリピートさせ、その食習慣をつくらせる。パッケージなども統一し、「私にとってイチゴといえばコレ!」とお気に入りブランドにしてもらうのだ。これが世界の農産物会社が行っている標準的なマーケティング手法だ。

そんなにうまくいくのか。相手は中国やベトナムである。日本の品種が「盗まれた」のと同様、韓国のイチゴ品種も「盗まれる」のではないか。そこには欧米の育成者や種苗業者らが育成者権の保証されない時代から、何百年にわたって培ってきたノウハウの蓄積がある。それを韓国は短期間で学習し、実践に移してきているのだ。

韓国人農家は日本人の育成者にほとんどライセンス料を支払わなかったが、英国やアメリカのイチゴ種苗管理会社にはちゃんと支払っている。

この違いは何か。

ノウハウの一部を明かそう。

ひとつは単純なもので、地域別「生産ライセンス」契約がある。同じ韓国でも、たとえば3地域に分けて、それぞれ専属種苗会社(ライセンシー)を指定する。それぞれの会社は担当の地域内でしか苗を販売してはいけない契約を結ぶ。それぞれが売った代金に対して、一定割合を育成者がライセンス料を得る方式だ。もちろん、契約を破って他地域に売るところもあるだろうし、種苗を買った農家が増殖して、好き勝手に広めることもありえる。

韓国に限らず、日本でも農業現場でもイチゴの無断増殖が日常茶飯事で起きている。育成した県などが「無断増殖は違法です!」といったポスターをつくって啓蒙活動をしているぐらいの低次元だ。

そもそも種苗法が存在することさえ、知らない農家はまだまだ多い。品種登録制度や育成者権に至ってはイチゴ農家でその具体的に内容を知っているのはわずか5.4%に過ぎない(平成27年度自家増殖に関する生産者アンケート)というのが現実だ。

国を問わず、無性生殖という商品の特性上、100%流出を防ぐことは不可能なのだ。無断でコピーしても、ほとんどの農家は罪の意識さえない。

ここに地域別生産ライセンスのポイントがある。複数の業者を指定することで、韓国人同士で縄張りを侵さないよう相互監視させるのだ。約束を破る者がいれば育成者に情報が入ってくるし、いちはやく対策も講じられる。育成者本人が韓国全土を回って監視するよりずっと現実的で、抑制効果も高い。

といっても、嘘の販売報告することだってあるだってあるかもしれない。そんなライセンシーの信用度や販売能力を事前に見極め、初めて契約するのがビジネスの基本だ。しかし、個人の育成者や中小企業では、海外で信頼できるライセンシーを見つけること自体が至難の業だろう。

そうした事業者のために、世界には植物品種専門のライセンス管理会社が複数ある。世界の種苗事情に通じた専門家とビジネス戦略を協議し、それに応じた業者選定、契約締結、ライセンス実務、販売量の報告、代金の回収までやってくれる。こういう会社は、イギリスやオランダのような古くから海を渡って、珍しい植物の遺伝資源を売買してきた”商人国家“に多くある

「盗まれて終わり」が鉄則

次に「販売ライセンス」契約がある。先に述べたように、イチゴのようにコピーされやすい植物の場合、苗生産がビジネスになりにくい。そこで、農家がつくったイチゴの販売金額に対して、ライセンス料をとる契約だ。もちろん、農家が過小に金額を申告する可能性もあるが、育成者側が売り先を指定するなどして、透明性を高めることができる。

さらには、育成者自らが農家からイチゴを全量買い取り、そのなかからライセンス料を差し引くところまでやる会社もある。それでも他社にこっそり売る農家が出てくるが、先の種苗会社同士の監視機能と同様、契約農家同士の噂ですぐに発覚することが多い。約束を破ったことが判明すれば、契約販売を中止し、農家に違約金を払わせるなどの措置をする。

いずれにせよ、約束を破った者が損をし、約束を守る(ライセンス料を支払う)者が得をする仕組みを継続的に構築していかなければならない。

そのための手法の一つが「新品種の育成プログラム」全体に対する契約だ。一品種単独で契約するのではなく、その育成者(個人や会社)が持っている複数の品種や開発中の品種について、利用したり、優先的にアクセスできるようになる契約である。その品種資産が魅力的であればあるほど効果がある。

農家からしてみれば、一度約束を破れば未来永劫、その育成者の魅力的な品種群が使えなくなることがイメージできる。そうした将来の損失を考えさせることで、一時的な利益のためにいま、約束を破るインセンティブを低減させるのだ。また、プログラム全体で契約することで、育成者権の期限に関係なく、ロイヤリティを回収できるメリットもある。

このビジネスモデルに似た金言が日本の種苗業界がある。「農家を騙すには三代かかる」。言葉は悪いが、保守的で支払いを渋る農家に信頼され、種苗の商売で儲かるようになるまで、三世代かかるという意味だ。

日本品種を無断増殖した韓国人農家を「ドロボー」と非難することは容易だが、そんなドロボーだらけの農業現場から金を回収してきた世界の種苗ビジネスの歴史から学べることは無数にある。

農水省の政策のように海外で品種登録して流出した際、中国・韓国など相手国政府の取り締まりに期待するなど、絵空事である。そんな育成者権の行使は最後の法的ツールにすぎないし、仮に係争に勝っても代金を回収できるとは限らない。

その前に、育成者自らが世界に戦略的に品種を広めようとしない限り、「盗まれて終わり」というのが生きた種苗ビジネスの厳しい鉄則なのだ。