日米首脳会談・トランプ発言のマスコミ誤訳問題
今回のテーマは、2月10日の日米首脳会談でトランプが日本に自由で公正な貿易をもとめた発言について。日本のマスコミではその発言の英語を誤訳、誤読し、それにもとづく論調が目立ったので正しておこう。
たとえば、NHKではこう報道していた。
経済の分野についてトランプ大統領は「われわれは自由で公平、両国にとって利益をもたらす貿易関係を目指す」と述べ、双方にとって利益となるよう貿易関係を築いていく姿勢を示しました。
新聞でもほぼ同様な訳がされている。
■「両国に利益をもたらす自由で公平、互恵的な貿易関係を目指す」(産経新聞)
■「われわれは自由、公正で双方に利益となる貿易関係を目指す」(時事通信)
■「両国に恩恵をもたらす貿易関係を求めていく」(日経新聞)
要約した見出しでは、
■「日米首脳会談 経済で相互利益を追求したい」(読売新聞)がある。
各紙もNHKと同様、相互利益がトランプのいちばんのメッセージだという理解、論調だ。
トランプの実際の発言は以下である。
‟On the economy, we will seek a trading relationship that is free, fair and reciprocal, benefitting both of our countries. ”
トランプの真意をはっきりさせるため、直訳するとこうなる。
「経済に関して、我々は貿易関係を自由で公正、かつ相互的なものにすることを求めます。そして、それは両国に利益をもたらすでしょう」
外交儀礼的な意味合いを省けば、単純に「私が日本に求めているのは、自由で公正な相互的な貿易関係だ」という意味だ。
アメリカの報道でも同じだ。
たとえば、CBSニュースの発言要旨はこうなっている。
′President Trump says the U.S. wants a “free, fair and reciprocal trade relationship with Japan.”’(トランプ大統領発言「アメリカは『日本との自由、公正、相互的な貿易関係』を要望)
別のアメリカの見出しはこうなっている
′Trump says trade with Japan should be ‟free, fair and reciprocal” at news conference with Abe(マーケット・ウオッチ)’(トランプ、日本との貿易「
(ちなみに、同記事についた読者コメントには、「トランプの発言は『日本は自由でも公正でも相互的でもない』に相当する暗号だ」という解釈もみられた。トランプのスピーチを分析してきた筆者も同意見だ)
日本のマスコミの理解とまったく違うことがおわかりだろう。どこにも両国の利益などでてこない。でもこんな簡単な英語をなぜ、誤訳するのか。
一つ目の理由は英語力不足だろうか。英語発言のカンマ以下「両国に利益をもたらすだろう(benefitting both of our countries)」は従属的な表現である。あってもなくても発言の意味はかわらない。あくまで「自由・公正・相互的な貿易関係を求める」が主文である。もし求める状態になればという前提で、「その関係は両国の利益になるだろう」と補足しているだけなのだ。
日本語訳では、「両国の利益になる」は補足なのに、「自由・公正・相互的な貿易関係」全体を修飾していると誤読したため、誤訳となってしまった。
「benefitting both of our countries」を英語の文章でいいかれば、「and it will benefit both of our countries」のことだ。当然、And以下の文は前の文章にかかっていない。
もう一つ、想像できる誤訳の理由と背景のほうがもっと問題だ。会談開始までの日本のマスコミの大方の論調は、「トランプに保護主義者のレッテルを貼り、一方的に日本に貿易戦争や通貨戦争をしかけてくるのではないか」という懸念や勝手な予想にもとづくものであった。
ところが、予想に反してトランプの会見ではそんな発言は一切でてこなかったため、面食らった。見誤った各社は論調を絶妙に修正するため、トランプの「両国の利益」発言部分をクローズアップしたのではないだろうか。わざと誤訳したということだ。
どちらの理由にしても恥ずかしい。
マスコミが論調を誤るのにはもっと恥ずかしい理由がある。TPPを離脱したアメリカ(トランプ)が保護主義で、推進した日本がいつからか自由貿易の旗手だと、思い込んでいるからだ。
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