米国の“穀物規格”戦略の本質  規格自体が世界への穀物流通の営業ツール  官か民かという問題は超越


2015.12.02

結論からいえば、官民の多層的な合意形成が効いている。官か民かという問題を超え、マーケットの需要の実態に合わせて運用されているのだ。それ以上に、規格自体が米国産穀物を世界に普及するための“営業ツール”になっている。

規格の決定から、等級、品質及び重量検査の手法と情報を提供するのがGIPSA(穀物検査・出荷業者及び倉庫業者管理機関)である。

その設置目的は以下のとおりだ。

「マーケットの統合性を確保」「公平で透明的なマーケットを確保」「品質管理の契約条件をマーケットに提供」「世界中の売買業者に対し、日々取引する穀物の種別と品質についての標準的なコミュニケーション手段の提供」「そのために、慣行的かつ革新的で、一貫した検査サービスを提供・維持」「連邦、州、民間レベルを超え、穀物検査について国際的なサービスと普及プログラムを提供し、米国産穀物が海外顧客に流通しやすいサービスの実施」

以上の実施体制として、国内向けには連邦、州、民間の研究機関に対して、検査手法とシステムが共有され、その改善が行なわれる。海外向けの品質確保のためには、GIPSA内に連邦穀物検査サービス(FGIS)が設置され、同部署が輸出される穀物貨物について全量検査する体制が整っている。

【官民一体のコスト・シェアによる海外販促】 

小麦を例に挙げよう。米国の小麦生産量は国内需要の2倍ほどだ。つまり、生産の半分が輸出用であり、米国小麦産業の生命線なのである。検査システムが厳しいだけでなく、海外への米国規格の普及を行なっている。具体的にどうなっているのか。

まず、先ほど述べたFGISの検査結果は、海外バイヤーに対し、等級と品質スペックの公的認証制度として機能している。次に、小麦の種別と産地(6種類、詳細は図1参照)別にサプライチェーンが構築され、生産地から輸出される港のターミナルまでの鉄道網と荷船網が長年かけて構築され、その間の検査体制が確立されている。品質規格は各種別ごとに5段階ある。

そして、輸出される米国産小麦について、海外バイヤー(製粉業者、加工業者、製パン業者、政府機関等)に対する6種別及びミックス小麦の規格や品質価値、信頼性の説明を担うのが生産者団体である。小麦の場合、全米小麦アソーシエイツ(U.S.Wheat Associates)で、19の小麦生産州の農家が参加している。生産者の拠出金は、1ブッシェル(約27kg)当たり0,0028ドルとなっており、全体で約20億円(1ドル120円換算)が年間予算となる。生産者予算1ドルに対し、米国農務省(USDA)が2,5ドルを拠出する。こうして官民一体のコスト・シェアによる海外販促が行なわれる。

【全米小麦アソーシエイツによる充実の海外向けサービス】 

全米小麦アソーシエイツが提供する海外向けサービスは大きく5項目に分かれる。「取引サービス」「技術的サポート」「マーケット情報と分析」「収穫と品質レポート」「顧客プロモーション」だ。

「取引サービス」は生産者団体が直接、海外のバイヤーからの購入や使用に関する問い合わせに対応するものだ。活動内容は、単なる顧客訪問や商談にとどまらない。顧客の国へのコンサル派遣やセミナー、研修プログラムの実施が含まれる。「技術サポート」は、米国の小麦6種別・ミックス小麦規格に基づく、製粉、貯蔵、取り扱い、最終製品の各産業に対して、個別のコンサル実施である。例を挙げれば、パン品質の比較的低い韓国に対して製パン業者を集めてのワークショップの開催、製粉自体の技術的成熟度の低いアフリカ諸国に向けては製粉の基礎から応用までの教育プログラムを提供する。「マーケット情報と分析」「収穫と品質レポート」は、播種から収穫までの各産地の状況や品質予想を海外バイヤーに報告するとともに、顧客が影響を受ける可能性がある規格詳細や各国の輸入制度の変更をレポートしていく。同時に、世界の小麦情勢や将来予測についてもまとめている。日本については、GM小麦の微量混入を受け、輸入検疫を強化する政府に対して、その科学的根拠を問ったり、その継続性が日本の小麦産業へのコストアップと不確実性を向上させることの懸念を表明したりする。他国に介入しすぎと見る向きもあろうが、日本最大の小麦バイヤーは国家貿易の独占体である農水省である。あくまで大口バイヤーに対する無料コンサルの一環である。農水省だけでなく、厚労省の残留農薬基準値の設定ルールについてもアドバイスする。「米国で新たな登録を受けた栽培、貯蔵用の薬剤に対して、基準値の設定が米国や他国のより高すぎる。その結果、日本向けの小麦については既存農薬を使うことになり、他国向けに比べて生産性の低さを生み、結局、日本の消費者に対するコスト負担増と安全性確保の低下につながる」(同団体ウェブサイトから要約抜粋)との助言である。

小麦規格の話からそれていると思われるかもしれないが、違う。規格とは穀物の外形や成分だけを示しているのではない。残留農薬の基準やGM穀物の扱いまで含め、播種から消費者の口に入るところまでのシームレスな(途切れのない)取引基準まで、マーケット要求から逆算し、サプライヤーである生産者が責任を持って設定することなのだ。

【マーケットより農家経済が主眼の日本】

翻って、日本の規格はどうなのか。それは農産物検査法(昭和二十六年法律第百四十四号)の第一条にその使命が明示してある。「この法律は、農産物検査の制度を設けるとともに(中略)農家経済の発展と農産物消費の合理化とに寄与することを目的とする」。マーケットより農家経済の発展を主眼にしては発展はない。消費の合理化とマーケットを意識した文面も補足してあるが、合理化とは「工程を能率的にすること」「弁解・正当化のための理由づけをすること」を意味する。実際、日本の小麦種別は、「普通小麦」「強力小麦」しかない。等級も「1等」と「2等」と「規格外」の3種類のみ。規格外に至っては、「異臭のあるもの又は1等及び2等のそれぞれの品位に適合しない普通小麦であって、異種穀粒及び異物を50%以上混入していないもの」とまったくもって“合理的”な規格となっている。これをもって世界の顧客に対して、日本の小麦のすばらしさをコミュニケーション、普及していけるとは到底思えない。

【米国では民間団体が実践的な“規格づくり”を先導】

米国の小麦団体は官民一体型である全米小麦アソーシエイツの一枚岩ではない。代表的なものに、純民間の全米小麦生産者協会(NAWG)や、全農や日本の商社も本会員になっている北米穀物輸出協会(NAEGA)がある。さらには、米国の域を超えた国際穀物通商連合(IGTC)がある。前者2団体は、米国政府が彼らのマーケットを阻害する規格や基準を作ったりしないようアドバイス・監視したり、余計な規制策定の動きが見られた際にはロビー活動を通じて徹底抗戦する。要するに、政府という穀物業界における利害関係者に特化したロビー兼コンサル組織である。純民間だからできる業界活動で、政府支援を受ける作物団体はこうした活動は法律で禁止されている。後者のIGTCも純民間で、世界各国政府や国際機関に特化したロビー兼コンサル国際団体だ。米国だけでなく、中国やロシア、インド等の穀物団体までもが加盟している。慣行穀物のみならず、GM穀物の規格案の策定及び提言からGMを取り巻く国際協定や取引基準におけるプロトコール作成まで、その守備範囲はグローバルである。各国の政府でさまざまなGMに対する見解や法律、独自の運用があるなか、民間団体が実践的な“規格づくり”を先導しているのだ。

日本ではTPP大筋妥結後、政府主導の作物団体(いわゆるチェックオフ制度)設立に向けた動きが浮上している。米国で純民間の小麦生産者団体設立は60年以上前、輸出団体に至っては1912年創設である。周回遅れどころか、3世代遅れている。

しかし何事も、思い立ったが吉日である。日本の穀物業界よ、いまこそ立ち上がれ。遅くても遅すぎることはない。

 

農業経営者2016年1月号特集「農産物『規格』を考え直す いまこそ民主導への転換を!」への寄稿記事