日本の農業は弱くない。 元気な農家を伸ばして 非効率な農政の終焉を


生産性がしっかり上がっている日本の農家 

日本農業は高齢化による農家減少と耕作放棄地の増加が問題視され、「40パーセントの食料自給率」向上が国策としてうたわれてきた。

肝心なのは、農家数と農地の減少を上回る生産性向上を実現しているかどうかである。自給率が79パーセントだった1960年、農業従事者は1200万人おり、生産量は4700万トン。2005年にはこれを上回る5000万トンを6分の1の200万人で実現している。現在、農家の上位7パーセントを占める14万件が国民の食の約6割を出荷するほど生産性が高まっている。出荷額が1000万円以上の農家たちで、2000年からの5年間で10パーセント売上が伸びている。この傾向は日本に限った現象ではない。先進国共通で、 英国では上位10パーセント、米国では1.4パ ーセントの農家が約5割の生産額を占めている。

いっぽう、販売農家のうち、売上100万円以下の農家が約110万件存在するが、出荷額ではわずか6パーセントしか貢献していない。統計上、農家と分類されるが、他の仕事で稼ぐサラリーマンや公務員が80パーセント以上を占める。この層が定年後も農業を趣味で続けるため、統計上、 農家の年齢層を押し上げている。これが、「2人に1人が65歳以上」と問題にされる高齢化の実態である。

農家減少も先進国では共通の現象だ。減少率を過去10年で比較すると、日本の22パーセント減に対し、ドイツが32パーセント減、フランス23パーセント減と大きく、EU15カ国でも21パーセント減で日本とほぼ同等だ。

生産性向上の結果、必然的に発生しているのが耕作放棄地であり、これも世界的な現象だ。無理に作付けても経済的に合わない農地が大半である。日本では政府による農地への過去の過剰投資が顕在化しているだけだ。

「カロリーベース」の食料自給率は日本だけ

自給率が国策になった根拠には「日本は最大の食料輸入国」で「海外に食料の大半を依存している」との前提がある。先進5カ国で、国民1人当たりの年間農産物輸入額を試算すると、英独仏のほぼ半分の324ドルで、米国214ドルとも大差ない。量で試算しても同様の結果がでる。

消費に対する国産の生産額をみれば、コメ九六 パーセント、野菜八三パーセント、畜産品七五パ ーセント、果物六九パーセントと国産で消費者の 需要を満たしている。これらを合計した「生産額 ベース」の自給率は昨年度七〇パーセントだ。

いっぽう、カロリーの高い油脂・飼料作物、大豆、小麦の国産シェアは低いが、品質・価格ともに国際競争力がなく赤字経営である。こうした低自給率の作物増産のために、赤字を補填する制度が民主党政権の「農家戸別所得補償」だ。自給率の向上を目的と謳いながら、他方、米の生産抑制(減反)を続ける論理破たんした政策でもある。 今年度5600億円の予算が投入されている。不採算の品目の増産を促せば、日本農業全体の生産性の向上を妨げ、国民の納税と高価格の二重負担は増え続ける。交付金対象の米、飼料米、米粉、大豆、小麦などの生産額は合計2兆円だが、これに対し、農水省は来年度、1兆円規模の予算を概算要求している。漁業にも導入するという。

「カロリーベース」食料自給率は、国民一人当たりの国産供給カロリーを供給カロリーで割って算出するが、この指標を使っているのは日本だけ、という事実は知られていない。供給カロリーには実際は消費されず、廃棄される食料が3割近く含まれる飽食の自給率だ。また、輸入量が減れば、国産が増えなくても自給率だけが上昇する特殊な計算式となっており、国際的にまったく通用しない。日本と比較される主要国の自給率は各国が算出したものではなく、農水省が独自計算した数字である。その低さを根拠に国民の不安を煽り、農家に作るものを税金を使って指し図することで、農水省の省益と政治家の票田を確保する手段とな ってきた。

くわえて、民主党は健全な経済を否定する赤字補償という考え方を取り入れた。この不健全な赤字農家を奨励する農政は、農業が産業として発展する道を阻むだけだ。民主党が巧妙なのは、「食料安全保障と所得補償」を政策パッケージにしたことだ。「所得補償をしなければ自給率が下がる、 下がれば食料安全保障が下がる、そうなれば万が一のときに国民は飢 える、それがいやなら所得補償に賛成しろ」という論理だ。

黒字か黒字を目指す農家こそ優遇を

筆者がこうした恫喝の民主党農政に代わって提言したいのは、「農業者黒字化」。名付けて、「農業者戸別黒字化優遇制度」だ。まず、対象は現在黒字か黒字を目指す農家に限定する。何を作ってもいい。需要はメーカーである農家が考える。減反など論外である。経営計画を提出した農家に対し、たとえば5年を期限として融資をおこない、 黒字を出せば全額返済免除、期間中の利益も免税 とする。いっぽうで、赤字農家は融資を返済しなくてはならない。

事業プランを作り、目標達成のために創意工夫しながら黒字を図る。こうしたごく当たり前の事業のあり方が根付くことが重要だ。審査は地銀や信金、ゆうちょ銀行など地域に密着した金融機関におこなわせる。農業は地域産業といわれながら、 民間の金融機関は農家にほとんど融資してこなかった。この政策を機会に、農家や農業ビジネスの実際を学んでもらい、地域バンカーとして中長期的に地元の農産業を育成、伸長していく役割を担ってもらう。

もうひとつの狙いは、「返済しないといけないのならいらない」と辞退者を出すことだ。今の補助金や所得補償制度では、「もらわないと損だ」の心理で必要のない人にまで多額の補助金が支給されていく。この分がなくなれば、国民が納得いく形で農業の成長に向けた支援がおこなえる。

現実はすでに、前述したとおり、農家の経営力が農水省の役割を超えてしまっている。だが、農水省は農業を政局化するために編み出した、農家減少や自給率低下を問題視する旧来のまやかしの農政パラダイムから抜け出せない。日本農業の出荷額ベースの市場規模はすでに、世界5位、先進国で米国に次ぐ2位に達している。

しかし、この出荷規模は減少傾向にある。農業 界が直面する現実の課題は、他産業とまったく同 様だ。少子高齢化、人口減少である。日本人全体 の胃袋が縮小している、つまり、市場が縮小しているということだ。

そして、減反が象徴しているように、食料は足りないどころか過剰生産に陥っている。スーパーの過多出店により、店舗には農産物の売り棚が拡大されるいっぽう、売れ残りロスは急増している。 流通の利益率低下が常態化し、農家への値下げ圧力が日に日に増している。少数精鋭の専業農家でさえ、供給過剰で所得が減少しているのが現実だ。

少ない税金でできる農業振興八つの提言

農業であれ何の業種であれ、所得を増やしたいのなら市場を開拓し、付加価値を増やすしかない。 未来の所得補償に代わる、農業振興の方法論について八つの提言をおこないたい。名付けて「日本農業成長八策」だ。

一、「民間版市民(レンタル)農園の整備」

二、「農家による作物別全国組合の設立」

三、「科学技術に立脚した農業ビジネス振興」

四、「輸出の促進」

五、「検疫体制の強化」

六、「農業の国際交渉ができる人材育成と採用」

七、「若手農家の海外研修制度」

八、「海外農場の進出支援」

本案にかかる税金は輸出補助金、海外への農場進出、若手農家の海外派遣に各1000億円の3000億円のみ。所得補償1兆円の3分の1以下の予算である。

ポイントは、税金をできるだけ使わずに、農業の市場規模を拡大し、農家の所得を増大させ、関連雇用を生みだす。結果的に、地域、国家の税収を増やすことだ。

長年、農業界には3兆円規模の税金が投入され、 農家の払う税金は数百億円と著しい不均衡があった。農業分野を保護するための高関税政策によって、WTOやFTA貿易自由化交渉を頓挫させ、 製造業の輸出機会を奪ってきた。日本経済が苦しい今こそ、農業界は税金の配分を求めるのではなく、基幹産業として経済成長を牽引する役割を果たすときだ。


『日本の論点2011』(2011)文藝春秋 から転載