マスコミが伝えない「トランプの長期思考法」


マスコミが伝えない「トランプの長期思考法」

大統領就任から1カ月足らず。世界が日々、トランプの言動に右往左往するなか、トランプは2020年の再選に向けた政治キャンペーン集会(フロリダ州)を開始した。

演説するトランプの後ろには「2020年(大統領選」、トランプ支持の黒人)」という応援ボードをもった支持者たちの姿がみえる。

就任して1カ月足らずで、再選キャンペーンを開始する大統領は史上初だが、昨年11月まで18カ月に及ぶ選挙戦をつぶさにみてきた筆者には何も驚くにあたらない。

トランプは就任式当日には2020年の再選選挙運動の開始について、連邦選挙委員会に許可申請済みである。その2日前には、2020年の選挙スローガンを発表、商標の登録申請も済ませている。

2016年の選挙スローガン「アメリカを再び偉大にする(メーク・アメリカ・グレイト・アゲイン)」に対し、2020年版は「アメリカを偉大なままにする!(キープ・アメリカ・グレイト)」である

トランプの思考の中ではすでに、大統領の1期目に任期が終わる4年後の2020年、「再び偉大なアメリカ」が現実のものとなっているのだ。だから、2期目の大統領の仕事は、1期目に実現した偉大なアメリカの維持、継続に専念することになる。よって、トランプにとって2020年の大統領選スローガンは「アメリカを偉大なまま!」以外にありえないのだ(ちなみに、「!」なしのスローガンも商標登録の申請をしている)。

「これは政治家の公約ではない。予測でもない。意思表示ですらない。(トランプにとって)すでに自明の現実なのである」「真実は事実のなかにはない、考え方の中にある」「重要なのは勝利の考え方、そのものなのだ」(『ドナルド・トランプ 黒の説得術』)

かといって、願望や幻想のたぐいの思考ではない。トランプの「周到な計算」「緻密に組み立てられたプラン」「長期的な戦略性」(同)はそんなレベルではない。

トランプは公式メルマガのなかでその実現手法を明かしている。

「われわれはこれから4年で打ち建てるすべてを確実に支えていく必要がある。そうすれば、その後、何十年も先まで『偉大なアメリカを維持』できるようになる」

そんな先のことを言われてもと面食らうだろうが、トランプの勝利の戦略論にもとづいている。この手法がマスターできれば、トランプの今後のシナリオが読み解ける。

いちばんの特徴は、「バックキャスティング」手法である。あるべき将来像(アメリカを再び偉大にし、その偉大なアメリカが維持される姿)を設定し、そこに至るための戦略を立案するプラニング法だ。期間はトランプの場合、最初の選挙期間から2期政権のおわりまで10年である。その期間を政治にとって要になるステージにわける。大きくわけて次の8ステージがある。

1期目予備選、1期目本選、政権移行期、1期目開始、中間選挙、2期目予備選、中間選挙、2期目本選

それぞれのステージごとに複数のシナリオ策定をおこない、その勝利への道筋と条件を分析する。このシナリオのなかには、月次のスケジュールや目標設定が組みこまれている。次のトランプの文章からもわかる。

「われわれの政党はその(「アメリカを偉大なままにする」実現に向けた)面倒をちゃんとみる。われわれは毎月の目標を設定している。最高のメッセージの届け方、最高のデータ分析、最高の現場戦のためのリソースを確保するために…(後略)」

さきほど引用したトランプの公式メルマガの続きだ。

何の話をしているのか。2018年の中間選挙のことだ。現場戦とは各州、地域での「どぶ板」選挙を指している。下院議員全員、上院議員の3分の1が改選となる。そこでの圧倒的な勝利を目指すための周到な準備について、メルマガで読者に伝えているのだ。

中間選挙についてトランプは、メルマガの1カ月半前のスピーチ(大統領就任式前日)でこう断じている。

「もう2年で選挙がやってくる。たくさんの、本当にたくさんの上院議員や下院議員が選ばれている」

トランプの勝利のシナリオの焦点は中間選挙、そしてその先にある再選選挙にある。なぜか。

現在、トランプ政権がスムーズに進行していないようにみえるのは、何もトランプのせいではない。議会での票数が足りないのだ。両院で共和党が過半数をとっているとはいえ、反トランプの党主流派の一部が反対票を投じることがある。それでは、公約がスムーズに実行に移せない。

また、野党民主党の議事妨害、遅延行動が続いており、トランプが指名した閣僚の半分はまだ仕事にさえつけていない状態なのだ。

だから、早いこと中間選挙と再選の圧倒的な勝利をシナリオ分析上、確実にさせて、「アメリカを再び偉大にする」ために仕事に集中したいのだ。

マスコミではトランプの就任1カ月を「カオス」「混沌」「混乱」と総括するだろうが、それはバックキャスティング思考法と反対の「フォア・キャスティング」思考法をとっているからだ。

フォア・キャスティングとは、現状分析から近い将来のトレンドを読み解く方法論である。この思考法では、いまおこっている事象に気をとられ、そこから短絡的に起きそうな将来を決めつめてしまいがちだからだ。

一方、トランプ支持者はメディアの報道に一切左右されない。トランプが長期ビジョンを設定し、逆算して目指すべきアメリカのために日々、働いている「バックキャスティング」にもとづくシナリオ(公約実現の過程)を熟知しているからだ。

支持者からしてみれば、トランプ政権の現状を「カオス」や「混沌」とマスコミが報じれば報じるほど、トランプが一生懸命働いている証となる。なぜなら政権初期(100日)のいちばんの目標はワシントンの特権階級追放(キャッチフレーズ「ワシントンのどぶさらい」)だからだ。

つまり、ワシントンにおける「混沌」とは、トランプの有言実行に対する政治家や官僚、メディアなど既得権益、つまりは「抵抗勢力」の哀れな戦いが表面化しているにすぎない。

トランプは2期8年の長期政権に向けて、緻密な戦略どおりの道を着実に歩んでいる。トランプは「戦術や方法論を自らオープンにしているような人物」(同)なのである。