米国史のなかのトランプ政権 ①トランプは「歴代最高」大統領リンカーンを超えられるか


①トランプは「歴代最高」大統領リンカーンを超えられるか

トランプ次期大統領は、アメリカ史上最高の大統領となり、「分断されたアメリカを統一する」政権運営を目指している。

その達成に向けて、2つのゴールを設定済みである。

ひとつ目は、「神が創造したなかで最多雇用を創出する大統領になる」ことだ。2016年6月16日、ニューヨークのトランプタワーでの大統領選出馬表明演説から繰り返し、こう公言してきた。1月11日の就任前記者会見でも念押しした。

もう一つは、歴史上、「だれよりも大統領らしくなる」(トランプ)ことである。

トランプは就任前から、ポジティブな自意識のなかではすでに史上ナンバー2の大統領まで上り詰めている。

「自分が望めば、私はだれよりももっとも大統領らしくなれる。偉大なエイブ(注:エイブラハムの愛称)・リンカーンを除いて」(2016年3月9日、記者会見)と自称し、断言してきたとおりだ。

これは、じつに大統領当選の半年前の発言である。選挙で戦ったヒラリー・クリントンについては、面と向かって「お前はリンカーンじゃない」(10月9日、第二回討論会)と言い放つなど、最初から眼中になかった。

しかし、なぜトランプはリンカーンを目指すのか。「史上最高の大統領ランキング」調査(アメリカ政治学協会調べ)をはじめ、アメリカ人にとって最高の大統領といえばリンカーンがトップの常連だからだ。また、トランプの好きな読書ジャンルは伝記、なかでも「リンカーン」である。

「つねに最高であることがすべて」がモットーのトランプにとって当然、ライバル視するのは世界の偉人であり、史上最高の大統領であるリンカーンのほかにいない。

政権に敵を取り込んだ共和党の創始者リンカーン

リンカーン(第16代大統領)といえば、「奴隷解放宣言」(1862年)やゲティスバーグ演説「人民の人民による人民のための政治」(1863年)で有名だ。南北戦争(1861- 1865年)によるアメリカ分断の危機を乗り越えた偉人として、広く国民に記憶されている。トランプが代表となった共和党の創始者でもあり、同党は別名「リンカーンの政党」とも呼ばれるぐらいだ。

トランプの公約「政府より人民に重きを置く」もリンカーンを思い起こさせる。これまでのトランプ最高の演説と誉れ高い「就任後100日計画-アメリカ有権者との誓約」演説(2016年10月22日)も、リンカーンにあやかってペンシルバニア州ゲティスバーグで発表した。

トランプにしてみれば、大統領ランキングの2位以下は関心の対象外だろうが、上位5位まで参考にみておこう。2位は初代大統領のジョージ・ワシントン、3位は第二世界大戦で日本に宣戦布告したフランクリン・ルーズベルト、4位は日露戦争の仲介者として有名なセオドア・ルーズベント、5位は「アメリカ独立宣言」を起草したトーマス・ジェファーソンとなっている。錚々たる顔ぶれだが、トランプは歯牙にもかけない。

ランキング8位と現存の大統領のなかで最高ランクを誇るビル・クリントンについては、どうか。トランプは妻ヒラリーとの選挙中、「(夫ビルは)レイプ犯」と位置付けるネガティブ・キャンペーンをはり、すでに人気失墜に成功している。18位のオバマ現大統領に至っては「この国の歴史でおそらく最低の大統領」(2016年8月2日発言ほか)とこけ落としてきた。

リンカーンだけをライバル視するのは、なにもトランプ流の大言壮語でもなければ、誇大妄想でもない。

トランプは「現代の分断したアメリカ」をリンカーン時代の「南北アメリカの分断」に重ねあわせているのだ。目指すは、分断を乗り越えた「リンカーンのリアルな大統領らしさ」(トランプ)を超える政権運営である。

リンカーンが南北戦争の分断から融和に導けたのには秘策があった。それは、リンカーン政権のメンバー構成にある。リンカーンは当時、反リンカーン派急先鋒で、大統領選でも激戦を繰り広げた3人の政敵を主要閣僚に登用したのだ。そして、彼らこそが、アメリカ統合に向けた「最大の同志」となった。司法長官エドワード・ベイツ、財務長官サーモン・チェイス、国務長官ウイリアム・スワードの3人だ。のちに「敵同士のチーム」と呼ばれる政権である(未邦訳『敵同士のチーム:政治の天才エイブラハム・リンカーン』。同書はトランプの愛読書のひとつ)。

このチーム方針は、リンカーンの政治哲学のひとつ「過去の復讐のために、貴重な政治エネルギーを浪費するな」(同前)からきている。この姿勢はトランプにも好影響を与えているだろうか。

政敵クリントンに対して、「(私が大統領になったら)お前を投獄する」(第二回討論会)とまで言い放ったが、勝利確定後、矛をおさめ「クリントンはわが国のために長年、尽くしてきた」(2016年11月8日、勝利演説)と労をねぎらった。同じ勝利演説でトランプは、分断を乗り越えるためにこう訴えかけた。

「アメリカは分断の傷を縛り、団結するときだ」「アメリカ中のすべての共和党員、民主党員、無所属の人々に私は言う。われわれは一つの団結した民衆として、集結するときだ」「私はすべてのアメリカ人のための大統領になる」

また、選挙中、トランプに激しく敵対し、党として支援を拒んだ同党主流派の代表格ポール・ライアン下院議長については、こう語っている。「彼は高級ワインのようだ(訳注:かつては未熟だったという皮肉も込めて)。日々、ましていく彼の天才性を私は堪能している。(中略)これから俺たちは税制や保険制度などの改革のために共に働いていく。でも、もし私に逆らったら、そう(高級ワインとは)呼ばないけど」(12月11日、ウイスコンシン州「感謝集会」演説)

落としては持ち上げ、そして落とすのはいつものトランプ流だが、その後、まさに「敵同士のチーム」作りを大統領就任日に間に合わせた。大臣から高官までトランプ政権に集った要人約4000人は、共和党の主流派や元からのトランプ支持派だけではない。選挙中、トランプと敵対した保守派やティーパーティー派のメンバー含む。こうしてトランプ政権は、共和党保守本流の「オールスター」が結集した布陣を築くことに成功したのだ。

このように大統領への移行期のトランプは共和党内での一致団結を図るステージにあり、目標とする分断されたアメリカの統一からは程遠い。そこで、「謙虚な」(自分の「いちばんの美徳」としてトランプがいつも掲げる形容詞)トランプとしては、今のところ大統領ランキング「自称ナンバー2」と自認しているのである。