【連載】トランプの自由貿易論【7】トランプの「為替の自由貿易」論(3)


トランプの「為替の自由貿易」論(3)

前回、自由貿易協定における「為替の自由貿易」論議はトランプの発案ではなく、TPP交渉でアメリカから提示済みであったことを示した。

さらにいえば、為替問題に言及していたのはトランプだけでない。アメリカの産業界も為替条項のTPP導入を訴えていた。たとえば、全米農業者組合(NFU)はこう表明している。

「私が驚いたのは、TPPの合意文書は6000ページもあるというのに、(自由貿易)協定にとって唯一にして最大の問題について合意していない。その問題とは為替操作である」(ロジャー・ジョンソンNFU会長、2015年12月5日発言)

トランプの功績は、演説やツイッターを通じて、米国内外にその存在と重要性を周知したことである。

そもそもTPP交渉にオバマ政権が為替条項を提示したのは議会からの要請があった。米上下院の法案で可決済み「超党派議員貿易優先事項と説明責任に関する法律2015)」(さらにその根拠法となっているのが「貿易円滑化及び貿易執行法2015」)にもとづくものだ。

しかし、この議会の意思に逆らって、オバマ政権は為替条項なしにTPP合意にサインしたのだ。そのことについて、貿易政策の諮問委員会ACTP(貿易政策・交渉委員会」も苦言を呈している。

ACTC議長からオバマ大統領への書簡(2015年12月3日付)にその経緯について詳しく記されている。

今後の日米交渉で最大テーマになるのは「日本の為替操作」問題である。その意味で、書簡の内容は参考になるので、一部抜粋(筆者仮訳)する。

「交渉官はTPPのなかに法的効力のある通貨規律の条項を含むことができなかったと表明した。(中略)しかし、ATCPの多数派はこの政策を政権が可能なかぎり早期に採用し、積極的に履行することを要請する」 

「交渉目標はTPP参加国に以下のことを約束させることであった。『為替レートや国際的な通貨システムの操作を無効とすること。その目的は、操作による国際収支の調整や不公正な競争上の優位性獲得を阻止するためである』

「参加国にはまた以下に同意することを求めた。『持続的な為替レートの不均衡を無効とし、競争優位になる通貨の切り下げを自制すること』」「加えて以下について約束すること。『外貨準備高や為替介入を含む幅広いマクロデータを公開すること』「そのことで、TPP参加国は約束事項の完全な履行を確実にするための効力を強化する。とともに、新たな協議メカニズムが参加国間で創設されることで、自由貿易協定においてはじめて、パートナー国同士の為替レートを監視、評価する継続的な会合を提供されることになる」

以上は、TPP協定に包括されなかった内容だが、今後の日米交渉でアメリカ側から提起される協議事柄に近いと推測できる。ポイントは最後の継続的な会合で「操作」が行われていないか、為替レートを互いに監視、評価される部分だ。

これが実現すれば、円安を誘導するような、日本の金融政策の手口が封じられる契機になる。これは、日本国民の財産を棄損する、アベノミクスという名の政府介入を規制する絶好の機会である。

トランプ側からみれば、日米合意する内容は「為替の自由貿易」のチェック機能における2カ国間合意の雛形になる。それを既成事実に、本丸である中国との為替交渉に切り込んでいく。(2016年12月23日)