【連載】トランプの自由貿易論【3】トランプのアダム・スミス『道徳感情論』


トランプのアダム・スミス『道徳感情論』

筆者はこれまでの連載で、トランプが”公正的自由貿易派”だと断言してきた。読者からはまだ、「本当ですか」との疑問の声が届く。

私の見解を述べ続けても、説得力がない。そこで、この問いにトランプ自身に答えてもらおう。初版2012年発表の著作でこう明言している。

「明白な事実がある。自由貿易には、誰にも同じく適用される公正なルールがあることが必要だ」(ドナルド・トランプ『Time To Get Tough』筆者仮訳)

まさに公平重視の自由貿易派である。自由貿易の必要条件は公正なルールの厳格適用だとシンプルに定義している。

逆にいえば、ルールを守らない貿易相手国の“不公平さ“が目につけば絶対に許せないタイプである。大統領選の2週間前に発表した(就任後)「100日計画」にこう明記している。

「私は商務大臣と通商代表部に指示し、アメリカの勤労者に不公正に影響を与えている外国によるあらゆる貿易の乱用を特定し、アメリカの法律ならびに国際法をもとにすべての手段を用い、すみやかにそうした乱用を終わらせる」

公正なルール適用に絶対の確信をもって、実際の政策に落とし込んでいるのだ。その根底にはトランプの真摯な問いにもとづく、自由貿易観がある。

「開かれた市場が理想である。しかし、誰かが市場でずっと不正を行っていたら、そのどこがいったい自由貿易なのか」(ドナルド・トランプ『Time To Get Tough』、筆者仮訳)

これは市場がオープンであればあるほどよしとする教条主義的な自由貿易論ではない。むしろ、フェアな精神、いうなれば道徳に根差した主張に聞こえる。

じつは、トランプにとって道徳こそが自由貿易の原理原則なのだ。経済学の祖で自由貿易を提唱したアダム・スミス(1723-1790)を引き合いに出し、次のように述べている。

「古典派経済学の法則に目を向けてほしい。その祖は偉大なスコットランド人アダム・スミスである。スミスの大作『国富論』について、資本主義のことをほとんど知らない人は、要するに『貪欲は善』だとする主張とみなして(誤った)まとめ方をする」

「なぜなら、資本主義やスミスを非難する多くの人は国富論の前に彼が著した『道徳感情論』を読む暇を惜しんでいるからだ。本書は、市場や取引、社会生活のための道徳的な基本原則を定めた内容で、絶対に手にとる価値がある。同書でスミスはこう記す。『人や財産、近所の評判を台無しにするような人間は間違っても、肯定的な業績を得ることはない』と」

スミスが自由貿易の提唱者といっても、彼の代表作『国富論』だけを読んで、自由貿易を誤解してならない。公正でない者が得をするような取引は自由貿易ではない、といっているのだ。『道徳感情論』を読みなさい。そうすれば、私の公正的自由貿易論がわかる、と。

筋金入りの公正派なのだ。トランプが公正を旨とするのは、彼の政策集をきちんと読めば、なにも貿易分野に限った話ではない。特定業界からの献金のきわめて少ないクリーンな選挙から違法移民への法の適用・厳罰処置、特定業界への手厚い補助金の廃止、国連など不透明な国際機関への拠出金削減などまで、首尾一貫している。

こうした公正思想の拠り所となっているのは上で取り上げたアダム・スミスだけでない。シェークスピアなどの文学から古代ギリシャ哲学、ユング心理学、科学ではアインシュタインに至るまで、多分野の文献を縦横無尽に引用しながら、トランプは解説していく。

日本のマスコミでは「トランプは全く本を読まない」(池上彰)など、トランプを無教養な人間だとするレッテル貼りが盛んである。氏の一連の著作をよむとまったく違う姿がみえてくる。

日本の政治家からも、持論をはっきり述べ、その支えとなる古典を縦横無尽に引きながら、国民にわかりやすく伝えてくれるような人物が出てきてほしいものだ。(2016年12月7日)

Time to Get Tough: Make America Great Again!
Regnery Publishing (2011-12-06)
国富論 (1) (中公文庫)
アダム・スミス
中央公論新社