【連載】トランプの自由貿易論【1】日本のどこが「不公正」なのか


日本のどこが「不公正」なのか

自由貿易派といっても、いろいろな流派がある。前回の「自由貿易のために戦うトランプ」の真意を理解するために、整理してみた。

下図(2015年5月作成)をご覧いただきたい。トランプの視点から、自由貿易に対する価値観について4象限マトリクスを作成し、主要プレイヤー(国、政権)のポジショニングを試みたものだ。横軸が自由貿易に積極的かどうか、縦軸に自由貿易に公平性に重きを置くか、を表している。

自由化(関税の完全撤廃など)を自ら進んで行う「積極的自由貿易派」がある。ニュージーランド、シンガポール、香港のような貿易国・地域が採用している。

トランプはこうした国々にはまったく言及しないし、攻撃もしない。自由貿易にアメリカ以上に積極的だからだ。

積極派と反対軸にあるのが「消極的自由貿易派」である。日本や中国、メキシコのように相手国が関税引き下げを強く要求をしてきたときだけ、しぶしぶ自由化する(とくに農産品目)。

トランプはこれら3カ国についてはいつも「不公平」だと言及する。自由貿易に消極的だからだ。

トランプは積極派と消極派のどちらでもない。もう一つの流派「公正派」だ。

「取引条件の同一化、公正化」を重視する立場である。自国と貿易相手国の条件が対等である限り、自由貿易を推進する。反対に、公平ではない場合、交易条件を同じになるよう交渉につとめる。

では、日本のどこが不公平なのか。

一例として、自由貿易の基本である関税率からみてみよう。

その点、「いちばん不公平」にみえるのが、残念ながら日本だ。

TPP交渉の末、決まった各国の自由化比率(全貿易品目のうち、関税撤廃済みおよび合意済みの自由貿易品目が占めるパーセント、貿易額ベース)を比較すれば、一目瞭然だ。

米国とその他がほぼ100%に対して、日本は95%となっている(参加12カ国で最低)。トランプが「不公平」だといつも非難するメキシコでさえ、99%だ。

日本の低さの原因となっている農産品目の自由化比率は、国でほぼ100%(他11カ国平均で98.5%)に対し、日本だけが81%と圧倒的に低い。メキシコでさえ96%である。

日本の比率は、もっとも「不公平」だとトランプに名指しされる中国よりもずっと低い(例:97%、中国・ニュージーランドFTAの場合)。

自由貿易の基本はすべての輸入品目に関税がない状態だ。その状態からいちばん遠い、反自由貿易国が日本である。

日本がトランプに「不公平」と名指しされるのには十分な根拠があるのだ。だから、そんな(不公平な)「日本はわれわれをやっつけてばかりだ」と堂々と発言しても、アメリカで非を問われることはない。

「自由貿易を攻撃しているのが日本」という立ち位置から話しているからだ。トランプが攻撃的なのではない。攻撃的な日本に対して、「スマート」にそして「タフ」に防御する交渉を呼びかけ、国民から賛同を得てきたのがトランプなのである。

このような「自由貿易の公平化」を重視するトランプの立場、主張は10年以上前から変わっていない。

「われわれはもっとタフな交渉をしなければならない。アメリカの周りに保護主義の壁は必要ない。海外製品がわれわれの市場でオープンなのと等しく、われわれの製品も彼らの市場でオープンであることが保証される必要がある。我が国の長期的な国益は世界の貿易パートナー国とよりよい協定を結ぶことにある」(ドナルド・トランプ『The America We Deserve2000

いつまでもトランプを保護主義者のレッテルをはって、空虚な批判をしている場合ではない。この「自由貿易のために戦うトランプ」の背景と文脈を理解しない限り、来年1月20日の大統領就任式以降にはじまる日米交渉の深層の部分はなにもみえてこない。(2016年11月29日)

 

※トランプが公正的自由貿易派といっても、当然のことながら、アメリカの貿易慣習がすべて公正という主張をしているのではまったくない。アメリカをはじめ主要貿易相手国の不公正貿易の実態については、経産省の「不正貿易報告書2016」が詳しい。

日本もアメリカの不公正をただし、戦わなければならない。「誰もあなたの代わりに戦ってくれないのだから」(トランプ)。ただし、自由貿易を議論するとき、同報告書が論じる個別貿易の不公正レベルより、本記事で論じた全体の自由化比率が要諦となる。その自由貿易の前提をクリアできないかぎり、日本の交渉の立脚点はいつまでたっても脆弱なままだからだ。