【はじめに】『日本の農業が必ず復活する45の理由』

日本の農業が復活する45の理由

【はじめに】

東日本大震災の発生から2ヶ月余りが過ぎました。

農地、農業生産施設の被災状況はどうなっているのか。今後、食料供給への影響はどれだけあるのか。原発事故に伴う放射性物質漏えいによる農産物の出荷制限および“風評被害”。刻々と変化するこうした食料、農業の惨状に対する報道を追ってみると、東日本大震災は我々が慣れ親しんできたモノの見方を根底から覆した、と言われています。

そして、個々の人生観、もっと言えば日本人の向かうべき方向性さえ転換が迫られている、といった論評が目につきます。果たしてそうなのでしょうか。

農業界に身を置くものとして申し上げておきたいのは、日本の農家はいつの時代も自然災害と戦い、絶えず克服してきたという事実です。災害のあった田畑は短期間で復旧されてきました。田を埋没させた堆積物を除去し、漏水対策をやってきました。その手法として、大量給水を可能にする灌漑体系の変更と水系の整備があります。

これは何も最近の話ではありません。古墳時代の4世紀初頭の復旧対策です。その結果、農業の生産性が向上し、食生活も改善したことを「災害考古学」が明らかにしてくれます。1700年後の今日、東日本で2万4000ヘクタールの田畑が被災しました。

古代と同様、現代の農家も見事復興を果たすことは間違いありません。そして、この自負が代々受け継がれ、災害を克服さてきた足跡が日本列島の歴史と言っても大げさではありません。日本人の大部分が住んでいる都市部は、その多くは農民が切り開いた田畑の平野部の上に立脚しているに過ぎないのです。

我々非農民がなすべきは、農産物を買い支えることです。大多数の国民が農業に携わっていた古代、中世、近世に比べ、現代は生産性の向上によって、農家の人口比率は、3%です。97%の国民が支えればいいのです。

指摘しておきたいもう一つの事実は、日本の農家のたくましさです。

九州と北海道の農業経営者から震災の翌日、著者にこんな電話が入りました。

「東北の農地被害による減産は確実だ。我々は何の野菜を増産したらいいか」双方同じ問い合わせでした。

どこかの産地が一時的に沈めば、別の産地がすぐにカバーに入る。商機に敏いと言われようが、これが農産物流通だあり、農業経済です。年間わ通じてスーパーで国産の野菜が一日も絶え間なく並んでいるのが、その証拠です。常日頃から無数の農家が市場や他産地の情報、動向をキャッチし、変化のシグナルを読み取り、作付け判断をしているのです。

日本農業は今、地震、津波、原発、風評被害、田植え制限と五重の苦難に直面していますが、日本はすでに世界5位の農業大国なのですから、その誇りを守る覚悟が必要です。

本書は、日本農業が復活するための歴史的な経緯から政治文化的要因まで縦横無尽に語ることは一切しません。そうした書物は数多あり、過去の農政を見てきた著者たたの思案を投影したものに過ぎません。農政を個人の過去に監禁する思想からは、農業の未来を直視できないからです。

日本農業の「未来を語る前に、今の現実を知らなければならない。現実からしかスタートできないからである」(ドラッカー)は至言です。

農地はどこまで放射能汚染されているのか。被曝野菜とどう向き合えばいいのか。震災と津波による影響はどんな影響があるのか。被災農家はいかに立ち直っているのか。目の前の現実を最初の4記事で語りつくします。

次に明示するのは、世界に冠たる日本の農業の実力です。それを支える農家とは一体誰のことなのか?同時に、農家と同列に語り継がれてきた高齢化問題、そして嫁不足問題の真相は?問題は一貫して幻想であったことを初めて挙証します。

農業は食料ビジネスの根幹です。それ以上でも以下でもありません。しかし、農業と食料問題を等価に語る、意図的な事実誤認が世に蔓延しています。「食料自給率」、「食料危機」、「世界の水不足」、「食料安全保障」といったキーワードの分析から、不正事実を語る者の底意を浮き彫りにします。関連して、昨今その地位を確立しつつある概念に「フードマイレージ」と「バーチャルウォーター」があります。未来への責任にかけて、その欺瞞性を立証していきます。

農業の成果は農産物の出来とその換金価値に現れます。野菜相場の乱高下、規格外野菜の行方、国際価格の動向、そしてメロン衰退の理由に迫っていきます。

日本農業は一貫してグローバル製造業です。燃料、種、肥料、飼料、資材を輸入し、生産して付加価値をつけます。農業にとって自由化の必要性、TPPのメリットは言うまでもありませんが、その反対勢力がなぜか強いのが農業界です。反論せずに論破します。

農業は“食べ物提供業”なのに、食への不安要因の対象とみなされます。遺伝子組換作物、中国野菜……は大丈夫なのか。農業は検疫業でもあります。次々と襲ってくる病害虫、家畜感染症と日々戦いです。口蹄疫はなぜ広まったのか?官尊民卑の制度から解剖します。

農業と農政は混同されます。減反政策、個別所得補償、民主党vs農協……こうした農家を蹂躙するシステムは破たんしていますが、それは農家が破たんしていることを意味しません。日本の農家の付加価値は世界6位です。

最後に、農業をもっと強くする「農家黒字優遇政策」「農地自由化五箇条」「日本農業成長八策」併せて14提言を一挙満載です。

事実を事実として語った結果、日本の農業が45の絶対復活する理由ができあがりました。
「事実を事実として語らないことを知的怠慢と言います。それが農業を日本で遠い存在にしてしまった。農業経営者の知的営為を遮断しなければ、日本農業はもっと良くなる」

そんな話をUstreamでしていた昨春、文藝春秋の藤森三奈さんから単行本にしてみないかとお誘いを受けた。本日まで一貫して絶大なる協力、心から謝意を表します。


日本の農業が必ず復活する45の理由 【あとがき】より転載