「アメリカの農家からみた大統領選の真実」と「トランプ大統領の農業政策」


アメリカの農家の立場から、大統領選をみるとマスコミと全く違う世界がみえてくる。農家のトランプ支持73%、クリントン支持10%(ファームフューチャーズ誌農家世論調査)。別調査(ファームジャーナル誌)でも同様の結果(トランプ74%クリントン9%)。両誌ともアメリカを代表する農業誌である。

最新の農家世論調査「アグリパルス」(200エーカー=80ha以上の農場のみ対象)では、トランプ支持55%、クリントン支持18%。農家女性でもトランプ支持が多数派。(ちなみに、アグリパルスは大統領選2週間前に、毎回、農家の規模別や年代別の詳細投票意向とその理由や背景としての農業経済分析をきっちりだしてくる信頼できる調査だ。(日本の農業界でもこういうの、しっかりやらんといけないですね。私の来年の宿題としておきます)。

調査内容については、アメリカ開拓、建国時代から独立自尊の農家は共和党支持が大多数派だから、当然の結果といえる。農場経営の自立に対して、政府が介入していく民主党支持農家は、あとからやってきた少数のアジア系・ヒスパニック系・少数の黒人系小規模農家が中心である。

だから、アメリカ農家にとっての大統領選3つの争点に絞られる。

1番目の争点:政府の農業介入

トランプ(共和党)が勝てば介入が減り、クリントン(民主党)が勝てば増える。クリントン大統領になると、農場経営がやりづらくなる。農場の不合理な水利用制限などの環境規制やGMラベル表示(クリントンの支持団体の要請)など

2番目の争点:経済状況

アメリカ経済が悪くなれば、アメリカの農業経済も悪くなる。

3番目の争点:財政赤字

赤字が増えれば、農業予算が減る懸念。

※上記の農家世論調査から抜粋・要約。

ちなみに、調査には出てこないが、現地取材した近代生活を否定するアーミッシュ派(自給自足だから全員農家)は、すべてトランプ支持である。政府の農場介入=信仰介入を積極的に進めたいわゆる進歩派革命政権のオバマに嫌気がさして、普段は投票しない(宗教上、地上の権威に関与しない)が今回は、クリントンになれば同じ農家いじめが4年続くのは避けたい。そこで、自分たちの自治的な農業・生活・信仰を守るためにやむえずトランプ投票動員中。とくに大票田(選挙人が多い)のペンシルバニア州にアーミッシュ派が多いから、彼らの投票率が高ければ、全体のトランプ勝利の確率が高まる。ほとんどが生まれてはじめて投票だから、トランプ票が純増するわけ(彼らは電話どころか、スマホやパソコンもなく、世論調査など受けないから数値にでてこない)。

上記の3つの争点から、アメリカの農家はトランプの経済政策、財政政策を支持している。また、農家目線の農業政策を策定するアドバイザーチームを発表済みである。

一方、クリントンはいまだに農業政策なし。「Rural for Clinton」(クリントンのための田舎)という田舎・農業を完全になめた上から目線のサイトと選挙運動があるだけだ。

農家票は、全米の有権者数でみれば少数派だが、大統領選を決する激戦州は農業州が大半。農業団体・関連業界票を含めれば、一大勢力となる。

日本のメディアではトランプは反自由貿易、反TPPとマスコミで報道されているが勉強不足である。彼が任命した農業アドバイザリー委員65名のリストをみよ。各自の経歴をチェックすれば明々白々だ。みごとに全員、自由貿易主義者(農業州=農産物輸出州の農業界重鎮だから当然)となっている。ぼくが4月に書いた「トランプのTPP論」の予想通りの展開。

トランプが農業重視をするのは、単に共和党の候補者だからではない。4年前のミット・ロムニーの農業政策アドバイザーは3名しかおらず、ブッシュ大統領の選挙時も同じく数名。クリントンに至ってはゼロ。それがトランプは全米に65名もいる。

これは‴トランプの弱み“(ニューヨーク基盤だから農業界のコネクションが弱い)を強みに変える”説得術のひとつだ。弱みをみせず、各州の農業界の重鎮(いわゆる農林族議員や農業団体幹部、有名な牧場主、資材・肥料業界の社長などなど。女性も7人)を選定。トランプは各自に「各州の農業政策まかせた!再び偉大なアメリカのために頼んだぞ!!」に任命書を送付したのだ。

任された農業界人はみんな一気にトランプ・ファンになった。農業州でトランプ選挙運動を熱心に開始した。

トランプにしてみれば、農村部はもともとの共和党組織票もあるが、反トランプ派議員のいる共和党主流派農業州では、その組織動員が進んでいなかった。だから、圧倒的な人数の農業アドバイザー委員会を結成し、それを巻き返す狙いも当然ある。

ただ形式上の任命ではなく、定期的にトランプの農業アドバイザーが集って議論する委員会が開かれている。委員長はトランプと話が通じる、異色の農業ビジネス経営者(大牧場主であり、肥料・農薬・飼料等の取引で資産家になった、共和党の献金者リストでトップの農家)

一方、クリントンのほうは農業州では、農務省州代表事務所、貧困層向けフードスタンプ実施事務所、医療保険・介護事務所など左派らしく、公務員層をベースに動員(これが手堅いけれど、ここ2、3週間に展開されたクリントンの説得術「何もしなくても勝ったふり作戦」と大手テレビ局ネットワークに何百億も広告を出して「メディア買収作戦」はうまくいかない。勝ったも同然作戦って、熱心に動員している選挙現場がいちばんしらける。クリントンもぼくの本を読んだ方がいい(笑))。(続く)


※本コラムは、2016年11月3日、拙著『ドナルド・トランプ 黒の説得術』を案内したFBをシェアくださった尾藤 光一さんに対する御礼文の前半を転載したものです。

尾藤さん、シェアありがとうございます! 大統領選、有権者のアメリカ人が農家だけならトランプ圧勝です。「尾藤さんとお友達のためのアメリカ大統領選農家目線からの特別おまけ解説!」